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函館家庭裁判所 昭和52年(少ハ)2号 決定 1977年3月01日

少年 T・N(昭三六・一・二〇生)

主文

少年を中等少年院に戻して収容する。

理由

(申請の要旨)

少年は、昭和五一年九月一七日、月形少年院を仮退院し、実父のもとに帰宅し、函館保護観察所の保護観察下に入つたものであるが、少年の我がままから家族との折合が悪く、昭和五一年一一月下旬、親のもとを家出し、友人宅、サウナ風呂などを転々として外泊生活を続け、保護観察所への出頭指示に応ぜず、昼間はパチンコ店に出入りして遊興に耽り、遂には窃盗などの非行を犯したものであり、少年が仮退院に際して遵守することを誓約した犯罪者予防更生法三四条二項に規定された一般遵守事項中の第一号、第二号及び第四号に違背し、更に特別遵守事項第四号(家出や無断外泊をしないこと)、第五号(盛り場徘徊や夜遊びを慎しむこと。)及び第六号(必ず担当保護司の指示に従うこと。)にもまた違背していることは明らかである。このように少年は、仮退院後、間もなく上記生活に陥り、勤労意欲に乏しく、犯罪を反覆してきたものであり、保護者の監護能力の欠如、少年の規範意識の低さを考えると保護観察による更生保護は困難であり、犯罪者予防更生法四三条一項により戻し収容の申請をする。

(当裁判所の判断)

1  少年は、申請の要旨のとおり、昭和五一年九月一七日、月形少年院を仮退院し、実家に戻つたものであるが、戻つた当初は家族との関係も悪くなく、生活態度も良好であり、同年一〇月中旬、新聞広告で函館市内の会社にトラック助手として勤務するようになつたが、その頃から次第に気が緩み、友人と遊んだり、継母からの注意をきかなくなつたため、家族と折合いが悪くなり、実家に居づらくなり、遂に同年一一月、保護観察の遵守事項に違反することを知りながら、家族に無断でアパートの部屋を借りて、以後実家にほとんど寄りつかなくなり、保護観察にも従わなくなつた。少年は、このように、次第に、自暴自棄となり、特に不満がないにも拘わらず、退職金を友人の借金に充てる理由で勤め先を退職し、生活費が不足したため、世話になつた友人宅で金員を窃取し、これの発覚を怖れて札幌に行つたりしたものであり、このような急速な生活の崩れと非行の再発は、月形少年院内の少年に対する矯正教育だけでは不十分なことが窺われ、更に少年の改善と更生の必要は急務と言わねばならない。

2  このような少年の仮退院後の問題点の発生は、少年の自己本位的特性、感情的な反発から目標のない即行的な行動に走り易い性格、更には安易な職業感などもその一因であり、この面における矯正の必要性があると言わねばならない。しかしながら原因は、これだけにあるのではなく、仮退院後の少年を取りまく家庭環境に大きな部分が存在したと言つても過言ではない。すなわち、少年の前件非行は、その原因が家庭に対する反発から生じたものであるにもかかわらず、仮退院後も家庭環境は改善されることなく、仮退院直後は双方が緊張しているため、問題点が顕在化しなかつたが、慣れるに従つて継母及び実父は少年に対する不満を表面に出して、少年の気持を理解して、家族の一員と考えるよりも、家族に心配を与えるものとしてしか考えず、少年に対して不信や説教の言葉しか出なかつたものであり、少年にとつて家庭は安住の場所ではなかつた。このことは審判における実父の発言からも窺われ、少年に対する攻撃の言葉のみが表わされ、実父らの家族の少年に対する態度の反省の言葉は全く認められなかつた。このような家庭環境の中で、本来、少年と適当に接触を保ち、社会的な躾けを身に付けさせる役割を持ち、少年の更生にとつて重要な役割を果すべき保護観察は、保護司が病気のため積極的な活動ができず、少年が家出した後は実父及び継母との連絡しかできなかつただけでは、少年の生活の崩れを防ぐことができなかつたことはやむを得ぬことであつた。以上のように、少年自身に問題点は認められるが、本来、少年の更生に対する社会的資源となるべき少年の家庭及び保護観察の運用に大きな問題があつたことは否定できない。

3  従つて、少年の前記問題点を矯正するために、一定期間、施設に収容して矯正教育を施すことは少年の更生にとつて適切であると考えられ、少年の年齢、生活歴などを考えると中等少年院に収容することが相当であり、少年は右収容によつて、自己に対する厳しさを身に付け、安易な職業感をなくして、地道な職業に付いて具体的な目標に向つて努力することができるような生活態度及び職業感を形成することを期待すると共に、実父及び継母の少年に対する態度が改善されることを望むものである。

4  よつて犯罪者予防更生法四三条一項、少年審判規則五五条、三七条一項、少年法二四条一項三号、少年院法二条三項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 小松峻)

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